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九段下ビル 8

 「インスタレーション」は一つの典型的な作品ですべてを説明できるようなものではありません。
 様々な作品があります。
 「九段下アトリエ」での展示が日本の現代美術としては非常に優れていた理由は「インスタレーション」の意味を理解して作品を作っている作家が多かったからです。

 もう一つ、典型的な作品を紹介しましょう。

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 芸大グループの勝亦かほりです。
 
 写真では解りにくいですが、作者の作ったクッキーを展覧会場に並べて(インストールして)それを訪れた観客が食べる、という作品です。

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 ギャラリーや美術館で観客が飲食をする(オープニング・パーティなどではなく、あくまでも作品として)ことがアートになる、ということに日本の美術評論家はびっくりして、相変わらずものすごく見当違いの解説を美術雑誌などに書いていますが、欧米の観客であれば誰もが容易に理解できる作品です。

 この種の作品で最も有名なのはタイの作家、リクリット・ティラヴァーニャ(Rirkrit Tiravanija)でしょう。

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 真ん中がティラヴァーニャです。

 ティラヴァーニャの作品は展覧会場でタイ・カレーを作って、訪れた観客にふるまう、というものです。

 彼はタイ人でありながら父親の仕事の関係でブエノスアイレスに生まれ、幼い頃から世界中を転々としていたため、欧米の文化、宗教、美術の常識、習慣が身に染み付いており、なおかつ、タイ人としてのアイデンティティを強く持った非常に優れた作家です。

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 これがティラヴァーニャの作品です。

 前の記事に書いた「ミサ」という言葉を覚えているでしょうか?

 「ミサ」(聖餐。英語のMASS。宗派によって呼び方が違う)は日本では余り馴染みがありませんが、イエス・キリストの最後の晩餐を再現(シミュレーション)したもので、イエスの言葉に沿って晩餐(夕食)が進み、信者は祭壇(インスタレーション)の前でパンと葡萄酒を与えられます。

 欧米の観客と言えども「現代美術」のことを深く理解しているわけではありませんから、ギャラリーで飲食することに最初は驚き、戸惑いますが、これはインスタレーション(祭壇)なんですよ、と説明されれば、誰もが「ああ、インスタレーション(祭壇)だから飲食をするのか」と納得するわけです。
 日本でお年寄りに現代美術を理解してもらうことは至難の業ですが、欧米ではどんなおじいさん、おばあさんでも「これはインスタレーションなの? ああ、なるほどね」となるわけです。

 こういう欧米のごく当たり前の常識や習慣が全く存在しない日本の現代美術は、世界的に見れば非常に特殊な日本独特のものなのです。

 繰り返しますが、こういったことは大西もアメリカで活動するまで全く知りませんでした。

 「美術手帖」を毎月購読し、有名美術評論家の書いた現代美術の本を何十冊読んでいても、日本にいては全く解らなかったのです。

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九段下ビル 7

 インスタレーション(Installation)の話の続きです。

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 同じく「九段下アトリエ」で展示した、高山真衣の作品です。

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 インスタレーションは立体作品ですが彫刻(sculpture)やオブジェ(objet)とは違います。
 彫刻やオブジェはそれ自体、単体で作品として成立しますが、インスタレーションは単体では作品にならない例えばロウソクや杯(カップ)、葡萄酒(ワイン)、お香(フレグランス)などをテーブルの上、あるいはギャラリーのどこかに設置することによって初めて作品になります。
 ロウソクや杯は作家の造ったものでなくても市販品でもかまいません。
 そして、展示期間が終わればそれらはすべて片付けられて、もう作品ではなくなってしまうのです。

 こうしてみるとインスタレーションの本来の意味が教会でミサ(儀式)の時に机の上にロウソクや杯を並べて準備される「祭壇」のことだ、ということがよく解るでしょう。

 日本の美術評論家はこの事を全く知らずにインスタレーションの説明をし、代表的な作品や作家の解説をし、インスタレーションの本まで出版しているのです。

 日本の現代美術の専門家がいかに欧米の専門家とは異質なものか、ということがよく解っていただけると思います。

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 高山真衣は女子美グループの中では最も「現代美術」らしい作品を作っていました。

 2014年には上海でも展覧会を開いています。


九段下ビル 6

 九段下ビルで開かれた展覧会の中で特に取り上げたいものは「現代美術」の中で代表的なジャンルである「インスタレーション」です。

 インスタレーション(Installation)は現代美術用語としては非常にお馴染みのものですが、一般の方にはまだ余り馴染みの無い言葉でしょう。
 インストール(install)「設置する」という英語から来ている言葉で、絵画でも彫刻でもなく空間全体を使って構成された作品を言います。

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 これがインスタレーションです。

 解りにくいでしょう?(笑)

 例によってアメリカで使われ始めた言葉ですが、日本では1990年頃「現代美術」が外国から輸入した最新の風俗として大流行していた頃、その目新しさを一般の人に説明するために、特に「美術手帖」などの美術専門メディアで数多く紹介されました。
 大西は現代美術をよく「クリスマス」に例えますが、この「インスタレーション」の流行は最近で言えば「ハロウィン」のような感じでしょうか?
 それから20年以上が経ちますが、大西が驚くのは日本でインスタレーションの意味を知っている現代美術関係者に一人も会ったことが無い、ということです。
 それは、芸大、美大で現代美術を教えている教授、国、公立の近、現代美術館の館長、主任学芸員クラス、現代美術専門の美術雑誌の編集長クラス、現代美術専門の美術評論家がインスタレーションの意味を知らないのです。

 まさか、と誰もが思われるでしょう。

 ホントです。

 インスタレーションは「キリスト教の教会の祭壇」という意味なのです。

 アメリカ人であればインスタレーションの意味を知らない人は一人もいません。
 しかし、アメリカの現代美術の専門書の「インスタレーション」の項目には、それが「教会の祭壇」という意味だとは(当然のことながら)わざわざ書いていないのです。
 そのため、アメリカで生活したことがなく、親しく付き合っているアメリカ人もいない日本の美術評論家にはインスタレーションの意味が永遠に解らないのです。(大西もアメリカに行くまで知りませんでした)

 この驚くべき事実は日本の「現代美術」の本質を最もよく表しているエピソードだと思います。

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 九段下アトリエにおける、加藤久美子のインスタレーション。

 この加藤は日本人でありながら「インスタレーション」の意味を知っていました。
 それは彼女が海外で長く生活していたことに関係があるのだと思います。

 彼女の作品を見ると、インスタレーションとは何か、ということがよく理解できます。

九段下ビル 5

 九段下アトリエはニューヨークのPS1やロサンゼルスのMOCA別館にも劣らない(いずれも古い建物を現代美術の展示のために改装している)素晴らしい展示スペースでした。

 PS1やMOCAに比べて大きく劣っていたのは資金力(お金)でしたが、若いアーチストたちが知恵と工夫でお金の無い分を補っていました。

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 これは、LAのダウンタウンにある九段下ビルそっくりのビル。
 色、形、大きさ、たたずまい、おそらくは造られた年代も九段下ビルにそっくりです(笑)

 騙されました?

九段下ビル 4

 2011年、11月〜12月にかけて行われた展覧会はビル3階の「九段下アトリエ」と名付けられたスペースで開かれました。
 約2ヶ月間に6つの個人とグループの展覧会が開かれました。
 どの展覧会もこの1927年完成の美しいビルの特徴を生かした素晴らしいものでしたが、展覧会全体のキュレーター(企画者)というものは特にいませんでした。
 若いアーチストたちに声をかけたのは大西ですが、展示の内容やテーマについて深い考えがあったわけではありません。

 しかし、特に優れた展覧会をした2つのグループの2人のアーチストの名を挙げたいと思います。

 東京芸術大学グループの金田翔と、女子美術大学グループの古田さくらです。

 この2人は作家(アーチスト)であると同時に、自分以外の作家の選択、連絡、会場の設定、九段下ビル関係者との交渉、ブログの開設、マス・メディアへの対応などに大きな役割を果たし、キュレーター的な存在でもあったと思います。

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 東京新聞の小國記者の取材を受ける古田さくら。
 昭和の映画の一シーンのようです。

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 東京芸大のグループ。
 一人を除いて全員が先端芸術表現科です。
 右から3人目が金田翔です。
 

九段下ビル 3

 九段下ビルは1927年(昭和2年)に完成しました。
 もし、現存していたら築90年、2012年に取り壊された時点でも築85年、という長い歴史を持つビルでした。

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 竣工直後の九段下ビル。
 同時代のサンフランシスコかシアトルのチャイナ・タウンのようなハイカラさです。

 震災復興建築として歴史的にも貴重なビルでしたが、晩年、多くのアーチスト、建築家、マンガ家、映像作家がこのビルに関わり、様々なインスピレーションを得て多くの素晴らしい作品を生み出しました。
 大西の専門分野である「現代美術」に関しても、数多くの興味深い試みがなされました。
 それらの中でも九段下ビルが取り壊される寸前の2011年、11月〜12月にかけて行われた一連の展覧会は、日本の現代美術としては非常に珍しい、質の高いユニークなものだったのです。
 

九段下ビル 2

 九段下ビルの最大の特徴はその外観にあります。

 晩年、マス・メディアでは「アール・デコ・ビル」とも呼ばれたように独特の装飾が施されたファサード(ビル前面)が多くの人の目を引きつけましたが、必ずしも典型的なアール・デコ・スタイルというわけではなく、スクラッチ・タイルによって横方向の長さを強調した縞模様(ストライプ)の意匠(デザイン)はドイツのバウハウスの一連の集合住宅にも通じるものがあり、一言では言えませんが(無理に一言で言うと)よく、こんなカッコイイビルを90年近くも前の日本で造ったな、という感じでした。

 同時代の一連の同潤会のアパートと比べれば、その設計、色、デザイン、装飾が凝りに凝っていることは、専門家でなくてもよく解ると思います。

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九段下ビル

 日本の話題です。
 「九段下ビル」をご存知ですか?
 東京メトロ「九段下」駅近くにあった古いビルで、一部の専門家や建築マニアの間では有名だったビルです。
 残念ながら「東京駅」や「東京中央郵便局」ほどの知名度(人気)は無く、2012年に惜しまれながらも取り壊されてしまいました。

 このビルについて少し、お話ししましょう。

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FC2ブログへようこそ!画家の大西信之です。日本とアメリカのファインアートとポップカルチャーに興味があります。最初は自分の仕事、ゆくゆくはその他の事柄についても取り上げていきたいと思います。

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